武士の生き様を格調高く描く作家、葉室麟。その作品を読んでみたいと思っても、「作品数が多くて、どれから読めばいいの?」と悩んでいませんか。この記事では、葉室麟の読む順番について、その独特な作風や魅力に触れながら、初心者にも分かりやすく解説します。おすすめの人気ランキングはもちろん、最高峰の文学賞である直木賞を受賞した作品や、ドラマ化された話題作、そして壮大なシリーズものまで、あなたにぴったりの一冊を見つけるための道筋を丁寧に案内します。
- 葉室麟作品の魅力と初心者へのおすすめがわかる
- 文学賞受賞作や映像化作品からの選び方がわかる
- 全シリーズの正しい読む順番とあらすじがわかる
- 葉室麟のプロフィールと全作品一覧がわかる
葉室麟の読む順番|初心者におすすめの作品から
葉室麟の作品世界への第一歩は、どの扉から入るかが重要です。数ある名作の中から、特に初心者が手に取りやすい作品や、作風を知る上で最適な一冊を見つけるための方法を紹介します。まずは人気作や受賞歴のある作品から、葉室麟の魅力に触れてみましょう。
葉室麟作品の特徴・作風と魅力について

葉室麟作品の最大の魅力は、武士の清廉な生き様や、逆境に置かれた人々の矜持(きょうじ)を、格調高く美しい筆致で描き出す点にあります。物語の多くは江戸時代を舞台としており、特に作家自身の出身地である九州の諸藩をモデルにした作品が多いのが大きな特徴です。これは地方紙記者として長年勤め、地方から中央を見つめてきた彼の視点が、作品に深く反映されているからでしょう。
彼の描く主人公は、歴史の教科書に登場するような英雄ではありません。むしろ、権力の中枢から外れた人物や、藩の政争に敗れた者、無実の罪に苦しむ者など、いわゆる「敗者」の側に立つ人々が中心です。しかし、彼らは決して惨めなだけではなく、不正や理不尽に屈することなく、自らの信念や人間としての尊厳を貫こうとします。その静謐ながらも内に熱い情熱を秘めた姿は、現代に生きる私たちの心にも深く響き、生きる勇気を与えてくれます。
葉室作品の魅力のポイント
- 逆境に立つ人々の「矜持」:権力に屈せず、己の信念を貫く人々の姿に心打たれる。
- 地方から見た歴史:九州などの藩を舞台に、中央とは異なる視点から物語が描かれる。
- 静謐で美しい文体:情景が目に浮かぶような美しい日本語で、人間の内面が深く掘り下げられる。
その作風から「藤沢周平の継承者」と評されることもありますが、葉室麟自身は漫画家の白土三平からの影響を公言するなど、独自の作風を確立しています。人間ドラマの深さと、ときには伝奇的な要素も交えたエンターテインメント性を両立させているのが、葉室麟作品の尽きない魅力といえます。
おすすめの人気ランキング10選から読む

どの作品から読むか迷ったときは、多くの読者に支持されている人気作から手に取るのが最も確実な方法です。ここでは、読書サイトのレビューや評価、売上などを基に、初心者にも自信を持っておすすめできる10作品を、詳細な紹介と共にランキング形式で解説します。
1位:蜩ノ記 (ひぐらしのき)

命の期限を知る男が示す、武士としての覚悟と人間の気高さ。
作品内容・あらすじ
前藩主の側室との不義密通の廉で、10年後の切腹と家譜の編纂を命じられた戸田秋谷。監視役として遣わされた檀野庄三郎は、秋谷の清廉な人柄に触れるうち、その罪に疑念を抱く。残された日々を淡々と、しかし気高く生きる秋谷の姿を通して、命の尊厳と武士の矜持を問う物語。
見どころ・注目ポイント
死を目前にしながらも、家族や周囲への慈愛を忘れず、自らの務めを全うしようとする主人公の姿が圧巻。物語が進むにつれて明らかになる事件の真相と、秋谷が背負った密命には驚きと深い感動がある。葉室麟の世界観が凝縮された、まさに最高傑作と呼ぶにふさわしい一冊。
出版年 | 2011年 |
---|---|
小説ジャンル | 時代小説 |
シリーズ名 | 羽根藩シリーズ |
受賞 | 第146回 直木三十五賞 |
メディア化 | 映画(2014年) |
2位:散り椿 (ちりつばき)

亡き妻の想いを胸に、男は再び剣を抜く。
作品内容・あらすじ
上役の不正を訴え藩を追われた剣の達人・瓜生新兵衛。18年後、亡き妻の遺言を胸に帰郷した彼を待っていたのは、藩主代替わりを巡る新たな権力闘争だった。かつての親友であり、恋敵でもあった男との再会が、新兵衛を宿命の渦中へと引き込んでいく。
見どころ・注目ポイント
胸に秘めた想いと、武士としての義理の狭間で葛藤する登場人物たちの心理描写が秀逸。物語の核となる殺陣の場面は、迫力がありながらもどこか物悲しく、美しい。愛とは何か、誠実に生きるとは何かを深く考えさせられる、感動の時代長編。
出版年 | 2012年 |
---|---|
小説ジャンル | 時代小説 / 剣豪小説 |
シリーズ名 | 扇野藩シリーズ |
メディア化 | 映画(2018年) |
3位:銀漢の賦 (ぎんかんのふ)

友か、正義か。引き裂かれた二人の魂が再び交差する。
作品内容・あらすじ
西国の小藩、月ヶ瀬藩。若き日に同じ剣術道場で汗を流した日下部源五と松浦将監。しかしある事件を境に二人は袂を分かち、絶縁状態に。二十年の時を経て、藩を揺るがす危機を前に再び対峙した二人が選ぶ道とは。男たちの熱い友情と信念を描く。
見どころ・注目ポイント
身分も立場も違えど、互いを認め合う男たちの絆の物語が胸を熱くさせる。なぜ二人は絶縁しなければならなかったのか、過去の因縁が明らかになるにつれて、物語は一気に加速していく。読後、タイトルにある「銀漢(天の川)」の情景が目に浮かぶような、清々しい感動が残る。
出版年 | 2007年 |
---|---|
小説ジャンル | 時代小説 |
受賞 | 第14回 松本清張賞 |
メディア化 | テレビドラマ(2015年) |
4位:螢草 (ほたるぐさ)

けなげな娘が剣を手に、父の無念と恩人の危機に立ち向かう。
作品内容・あらすじ
無実の罪で切腹した父の無念を晴らすため、武家の娘・菜々は身分を隠し女中として奉公する。奉公先の風早家の人々の優しさに触れるが、その風早家もまた藩の陰謀に巻き込まれる。父を陥れた仇が恩人にも迫る時、菜々は一世一代の勝負に挑むことを決意する。
見どころ・注目ポイント
主人公・菜々のひたむきで前向きな姿に、読む者は自然と引き込まれ、応援したくなる。物語のテーマは仇討ちだが、全体を包む雰囲気は明るく爽やか。困難に立ち向かう菜々の成長と、彼女を支える人々との心温まる交流が感動を呼ぶ。
出版年 | 2012年 |
---|---|
小説ジャンル | 時代小説 |
メディア化 | テレビドラマ(2019年) |
5位:川あかり

藩一番の臆病者が挑む、まさかの家老暗殺指令。
作品内容・あらすじ
綾瀬藩の若侍・伊東七十郎は、藩一番の臆病者。そんな彼に、派閥争いの渦中にある家老の暗殺という密命が下される。川止めで足止めを食らった宿で、一癖も二癖もある人々と出会い、七十郎の覚悟は揺れ動く。果たして彼は使命を全うできるのか。
見どころ・注目ポイント
頼りない主人公が、様々な出会いを通して成長していく姿をユーモアたっぷりに描く。シリアスな状況設定ながら、軽快な筆致で笑いと涙を誘う。思いがけない結末も鮮やかで、読後は温かい気持ちになれる人情時代小説の快作。
出版年 | 2011年 |
---|---|
小説ジャンル | 時代小説 |
6位:秋月記 (しゅうげつき)

流罪の武士が貫いた、藩と主君への揺るぎなき忠義。
作品内容・あらすじ
筑前国・秋月藩。藩主を蔑ろにし権勢を振るったとして流罪の処分を受けた間小四郎。彼は本当に藩を蝕む逆臣だったのか。史実を基に、権力闘争に翻弄されながらも、最後まで己の正義と忠義を貫こうとした武士の半生を、繊細な筆致で描き出す。
見どころ・注目ポイント
歴史の敗者として記録された人物に光を当て、その内面に深く迫っていく葉室麟の真骨頂が味わえる一作。藩の複雑な人間関係と、主人公の孤独な戦いが丹念に描かれる。歴史の裏側で何が起きていたのか、読者の知的好奇心を強く刺激する。
出版年 | 2009年 |
---|---|
小説ジャンル | 歴史小説 / 時代小説 |
シリーズ名 | 秋月藩シリーズ |
7位:いのちなりけり

一首の和歌に込めた、十七年に及ぶ夫婦の純愛。
作品内容・あらすじ
雨宮蔵人は妻の咲弥から「私の心を映した和歌を見つけるまで、夫婦の契りは結べない」と告げられる。それから十七年、ついにその歌を見つけた蔵人は、幕府と朝廷の政争に巻き込まれ離れ離れになった妻の元へ、命を賭して歌を届けようとする。
見どころ・注目ポイント
夫婦の絆という普遍的なテーマを、和歌をモチーフに壮大なスケールで描いた恋愛時代小説。愛する人のために身を賭す蔵人の一途な想いと、それを支え続けた妻の強さが胸を打つ。シリーズ第一作であり、ここから始まる壮大な物語に期待が膨らむ。
出版年 | 2008年 |
---|---|
小説ジャンル | 時代小説 / 恋愛小説 |
シリーズ名 | 雨宮蔵人シリーズ |
8位:潮鳴り (しおなり)

父の仇を討つ。緻密な策略で巨悪を追い詰める痛快復讐劇。
作品内容・あらすじ
羽根藩の郡方・海坂平四郎は、不正の罪を着せられ非業の死を遂げた父の仇を討つため、周到な計画を練る。父を陥れたのは、藩の中枢を牛耳る家老とその一派。平四郎は仲間と共に、権力という見えざる敵に知略の限りを尽くして立ち向かう。
見どころ・注目ポイント
『蜩ノ記』と同じ羽根藩を舞台にした、エンターテインメント性の高い一作。静かな感動を呼んだ前作とは対照的に、手に汗握る展開と策略の応酬が読者を飽きさせない。悪が裁かれる結末は爽快で、勧善懲悪の物語が好きな方には特におすすめ。
出版年 | 2013年 |
---|---|
小説ジャンル | 時代小説 |
シリーズ名 | 羽根藩シリーズ |
9位:冬姫 (ふゆひめ)

魔王の娘と呼ばれた姫が、戦国の世を気高く生き抜いた生涯。
作品内容・あらすじ
織田信長の次女として生まれ、蒲生氏郷の正室となった冬姫。父・信長譲りの気性と美貌を持ち、政略の道具として翻弄されながらも、決して誇りを失わなかった。信長の死後、激動の時代を駆け抜けた一人の女性の、知られざる生涯を鮮やかに描き出す。
見どころ・注目ポイント
歴史の影に隠れがちな女性に光を当てた、貴重な歴史小説。戦国武将の妻として、母として、そして一人の人間として、冬姫がどのように生き、何を想ったのか。その凛とした生き様は、現代の女性にも多くの共感と感動を与えるだろう。
出版年 | 2011年 |
---|---|
小説ジャンル | 歴史小説 |
10位:無双の花 (むそうのはな)

一度は全てを失った男。不屈の魂で再び故郷の主となる。
作品内容・あらすじ
豊臣秀吉に「無双」と称された猛将・立花宗茂。関ヶ原の戦いで西軍に与し、敗戦の将として改易、浪人の身となる。しかし、徳川家康はその器量を高く評価していた。どん底から這い上がり、奇跡の復活を遂げて旧領・柳川への大名復帰を果たすまでの、波乱に満ちた半生を描く。
見どころ・注目ポイント
敗者となっても決して希望を捨てず、支えてくれる家臣たちへの義を貫いた立花宗茂の人間的魅力が存分に描かれている。逆境においても腐らず、再び立ち上がる人間の強さに勇気づけられる一作。歴史好き、武将好きにはたまらない物語。
出版年 | 2012年 |
---|---|
小説ジャンル | 歴史小説 |
文学賞・直木賞受賞作品から読む
- 『乾山晩愁』 – 第29回歴史文学賞
- 『銀漢の賦』 – 第14回松本清張賞
- 『蜩ノ記』 – 第146回直木三十五賞
- 『鬼神の如く 黒田叛臣伝』 – 第20回司馬遼太郎賞
作家の実力と作品の質を客観的に知る上で、文学賞の受賞歴は最も分かりやすい指標の一つです。葉室麟は、その作家人生において数々の権威ある文学賞を受賞しており、それらの作品は彼のキャリアを象徴する傑作ばかりといえます。
中でも最も有名なのは、やはり第146回直木賞を受賞した『蜩ノ記』でしょう。直木賞は、公益財団法人日本文学振興会が主催する、大衆文学作品に贈られる最も権威ある賞の一つです。この受賞により、葉室麟の名は一躍全国の読書家に知れ渡りました。切腹を命じられた武士の残された日々を描いたこの作品は、選考委員からも高い評価を受け、葉室文学の金字塔となりました。
また、人気作家への登竜門ともいえる第14回松本清張賞を受賞した『銀漢の賦』も、彼の地位を確立した重要な作品です。さらに、作家としてのデビュー作であり、第29回歴史文学賞を受賞した『乾山晩愁』は、芸術家の兄弟の葛藤を描いた短編集で、初期の才能のきらめきを知ることができます。晩年には『鬼神の如く 黒田叛臣伝』で第20回司馬遼太郎賞を受賞するなど、生涯にわたり日本の文学界で高い評価を受け続けました。
これらの受賞作から読み始めることは、葉室麟という作家の本質に、最も早く、そして深く触れるための確かな方法です。
ドラマ化・メディア化作品から読む

物語の世界にスムーズに入りたい方、あるいは活字に苦手意識がある方には、映像化された作品から入るのも非常におすすめです。映画やドラマで物語の全体像や登場人物のビジュアルイメージを掴んでおくと、原作小説を読んだ際に、より情景を思い浮かべやすくなり、深く作品世界に没入することができます。
葉室麟の作品は、その重厚な物語と魅力的なキャラクターから、数多く映像化されています。
映画化作品
映画化された作品は、日本を代表する俳優陣とスタッフによって、葉室麟の格調高い世界観が見事に映像化されています。
特に『蜩ノ記』は日本アカデミー賞で多くの部門を受賞しており、映画作品としても非常に評価が高い一作です。
『蜩ノ記』(2014年公開)
主演:役所広司、岡田准一、堀北真希
監督:小泉堯史
日本映画界の巨匠・黒澤明の助監督を務めた小泉監督による、静かで力強い演出が光ります。(配給:東宝株式会社)

『散り椿』(2018年公開)
主演:岡田准一、西島秀俊、黒木華
監督:木村大作
名キャメラマンとして知られる木村大作が監督を務め、日本の四季の美しさと迫力ある殺陣を見事に融合させました。

テレビドラマ化作品
テレビドラマでは、小説の長い物語を時間をかけて丁寧に描いています。登場人物の内面や関係性の変化をじっくりと楽しむことができます。
『風の峠〜銀漢の賦〜』(2015年放送)
主演:中村雅俊、柴田恭兵
NHK木曜時代劇で放送。原作の男たちの友情と対立、そして哀愁を、日本を代表するベテラン俳優二人が熱演しました。
『螢草 菜々の剣』(2019年放送)
主演:清原果耶
NHK BS時代劇で放送。若手実力派女優の清原果耶が、ひたむきで芯の強い主人公を瑞々しく演じ、原作ファンからも高い評価を得ました。
全シリーズ一覧とおすすめシリーズ作品

葉室麟の作品世界の大きな魅力の一つが、特定の藩を舞台にした「シリーズ作品」の存在です。同じ世界観を共有する物語を読み進めることで、個々の作品だけでは味わえない、より深く、重層的な読書体験が可能になります。
各シリーズは基本的に独立しているため、どのシリーズから読み始めても問題ありません。しかし、シリーズ内の作品は刊行順に読むことで、登場人物の成長や藩の歴史的背景への理解が深まり、物語を100%楽しむことができます。
主要なシリーズ一覧
- 羽根藩(うねはん)シリーズ:
人間の尊厳と忠義を描く、葉室文学の真骨頂。 - 扇野藩(おうぎのはん)シリーズ:
藩の権力闘争と剣戟、秘めた恋を描くエンターテインメント作。 - 秋月藩(あきづきはん)シリーズ:
史実を基に、藩の内情と人間の苦悩をリアルに描く。 - 黒島藩(くろしまはん)シリーズ:
過去の事件の真相を追う、ミステリー要素の強いシリーズ。 - 雨宮蔵人(あめみやくらんど)シリーズ:
夫婦愛を軸に、元禄時代の歴史の渦を描く壮大な物語。
これらのシリーズの中でも、初めてシリーズものに挑戦する方に特におすすめなのは、代表作『蜩ノ記』から始まる「羽根藩シリーズ」です。
葉室作品の真髄である重厚な人間ドラマを存分に味わうことができます。また、映画化された『散り椿』に感銘を受けた方は、そのまま「扇野藩シリーズ」を読み進めるのが最もスムーズでしょう。それぞれのシリーズが持つ独特の空気感を楽しんでください。
シリーズ別|葉室麟作品の読む順番とあらすじ
葉室麟の小説世界を深く楽しむためには、シリーズごとの特徴と読む順番を知っておくことが欠かせません。ここでは、主要な5つのシリーズについて、それぞれの読むべき順番と簡単なあらすじを解説します。気になるシリーズから、物語の世界に飛び込んでみてください。
羽根藩シリーズの順番とあらすじ

葉室麟の代表作シリーズであり、豊後国(現在の大分県)の架空の藩「羽根藩」を舞台に、人間の尊厳や忠義をテーマにした重厚な物語が展開されます。まずこのシリーズから読む、というファンも少なくありません。
直木賞受賞作『蜩ノ記』を含むこのシリーズは、まさに葉室作品の入門にして真骨頂と言えるでしょう。
順番 | 作品名 | 刊行年 |
---|---|---|
1 | 蜩ノ記 | 2011年 |
2 | 潮鳴り | 2013年 |
3 | 春雷 | 2015年 |
4 | 秋霜 | 2016年 |
5 | 草笛物語 | 2017年 |
第一作『蜩ノ記』は、無実の罪で10年後の切腹を命じられた戸田秋谷が、監視役の檀野庄三郎と共に藩の歴史書「家譜」の編纂に励む日々を描きます。命の期限が迫る中での秋谷の気高い生き様が、読む者の魂を揺さぶります。続く『潮鳴り』は、同じ羽根藩を舞台に、父の仇討ちを誓う青年の緻密な策略を描く痛快な物語です。シリーズを通して読むことで、羽根藩という一つの世界の歴史と、そこに生きる人々の想いが深く心に刻まれます。
扇野藩シリーズの順番とあらすじ

映画『散り椿』の舞台となった「扇野藩」をめぐるシリーズです。藩内の派閥争いや、そこに生きる武士たちの潔い生き様、そして男女の秘めた想いが美しく描かれます。剣豪小説としての面白さも際立っており、エンターテインメント性が高いのが特徴です。
順番 | 作品名 | 刊行年 |
---|---|---|
1 | 散り椿 | 2012年 |
2 | さわらびの譜 | 2013年 |
3 | はだれ雪 | 2015年 |
4 | 青嵐の坂 | 2018年 |
第一作『散り椿』は、かつて藩を追われた剣の達人・瓜生新兵衛が、亡き妻の遺言を胸に帰郷するところから始まります。藩主の代替わりを巡る権力闘争の中で、新兵衛は親友であり恋敵でもあった男と再会し、宿命の対決へと向かいます。続く『さわらびの譜』では弓の名手である姉妹の葛藤、『はだれ雪』では忠臣蔵の裏側で翻弄される男女が描かれるなど、各作品で異なる魅力が楽しめます。
秋月藩シリーズの順番とあらすじ

筑前国(現在の福岡県)に実在した秋月藩で起こった史実「秋月騒動」を基にしたシリーズです。藩の内情と、それに翻弄される主人公の苦悩を史実の重みと共に繊細に描き出しており、歴史的背景と人間関係が絶妙に絡み合う物語が魅力です。
順番 | 作品名 | 刊行年 |
---|---|---|
1 | 秋月記 | 2009年 |
2 | 蒼天見ゆ | 2015年 |
第一作『秋月記』は、藩主をないがしろにし権勢を振るったとして流罪となった間小四郎が主人公。歴史の敗者の視点から、事件の真相と、彼の半生を通して武士としての正義と忠義のあり方を問いかけます。歴史小説ファンには特にたまらないシリーズといえるでしょう。
黒島藩シリーズの順番とあらすじ

豊後国の架空の藩「黒島藩」を舞台にした、ミステリー要素の強いシリーズです。過去に起きた事件の真相を追う中で、登場人物たちが自らの過ちや心の傷と対峙していく姿が描かれます。人間の弱さやずるさをも描き出す、人生の苦味を知る大人のための時代小説と言えるでしょう。
順番 | 作品名 | 刊行年 |
---|---|---|
1 | 陽炎の門 | 2013年 |
2 | 紫匂う | 2014年 |
3 | 山月庵茶会記 | 2015年 |
第一作『陽炎の門』の主人公・桐谷主水は、友を裏切って執政の地位に上り詰めた男。しかし、過去の事件が蒸し返され、彼の人生は暗転します。武士の挫折と再生を描く傑作です。続く『山月庵茶会記』では、茶人となった元武士が、茶会という静かな戦場で妻の死の真相を探ります。
雨宮蔵人シリーズの順番とあらすじ

武士・雨宮蔵人とその妻・咲弥の夫婦愛を軸に、元禄時代の大きな歴史の渦を描く長編シリーズです。「忠臣蔵」で知られる赤穂事件なども絡み、個人の愛の物語が歴史そのものを動かしていく壮大なスケールで物語が展開します。
このシリーズは3部作構成になっており、物語が密接に連続しているため、必ず下記の刊行順に読むことを強くお勧めします。
順番 | 作品名 | 刊行年 |
---|---|---|
1 | いのちなりけり | 2008年 |
2 | 花や散るらん | 2009年 |
3 | 影ぞ恋しき | 2018年 |
第一作『いのちなりけり』は、妻から「自身の心を映した和歌を見つけるまで寝所を共にしない」と宣言された蔵人が、17年の歳月をかけてその一首を探し求めるという、壮大な純愛物語です。時を超えた夫婦の絆の物語に、きっと涙するでしょう。
プロフィールと全作品一覧
葉室麟は1951年、福岡県北九州市小倉に生まれます。西南学院大学を卒業後、地方紙記者などを経て、2005年に54歳という年齢で『乾山晩愁』にて作家デビューしました。いわゆる「遅咲き」のデビューながら、その才能はすぐに開花し、松本清張賞、そして直木賞と、立て続けに権威ある文学賞を受賞します。
2017年12月23日、病のため66歳で逝去されました。死因は公表されていませんが、闘病中も最期まで執筆への情熱を燃やし続け、多くの読者に惜しまれました。精力的な執筆活動で、わずか12年という作家生活で60冊を超える単行本を世に送り出しています。
シリーズ以外の作品も傑作揃いです。シリーズを読み終えた方は、刊行順(出版順)に全作品を読んでいくことで、作家の文体の変化やテーマの深化を感じることができ、より深い読書体験が得られます。それこそが、一人の作家を愛する最上の楽しみ方かもしれません。
【まとめ】葉室麟の読む順番はこれで完璧
この記事では、葉室麟作品を初めて読む方から、さらに深く楽しみたい方まで、それぞれに合った「読む順番」を提案しました。紹介したポイントを参考に、あなたにとって最適な一冊、そして最高のシリーズを見つけてください。葉室麟が描く、美しくも厳しい武士の世界は、きっとあなたの心に深い感動と余韻を残してくれるはずです。どの作品から読み始めても、その魅力に引き込まれることは間違いありません。
- 初心者は直木賞受賞作『蜩ノ記』から読むのが王道
- 映画化された『散り椿』から入るのも分かりやすい
- 深く味わうなら『蜩ノ記』から始まる「羽根藩シリーズ」がおすすめ
- 各シリーズは刊行された順番に読むのが基本
- 作風が気に入れば全作品を出版順に追うのも面白い