緻密な時代考証と重厚な人間ドラマで、多くの読者を魅了する時代小説の大家・上田秀人氏。その膨大な作品群を前に「どの作品から、どういう順番で読めばいいの?」と悩んでいませんか。この記事では、時代小説で知られる上田秀人氏のプロフィールや、読者を惹きつけてやまない魅力的な作風を解き明かしながら、最適な上田秀人作品の読む順番をご案内します。
文学賞に輝いた代表作から、手に取りやすい文庫本のおすすめ人気作10選、壮大な物語が楽しめる各シリーズの作品内容、そして最新の新刊情報まで、あなたのベストな一冊を選ぶヒントをまとめました。
- 上田秀人作品の魅力と全体像の深い理解
- 初心者から熱心なファンまで満足できるおすすめの代表作や人気シリーズ
- 各シリーズの刊行順と物語の繋がりを明確に把握
初心者向け|上田秀人のおすすめの読む順番
数々の傑作を世に送り出し、時代小説界に金字塔を打ち立てた上田秀人氏。その圧倒的な作品数を前に、どこから手をつければ良いか迷うのは当然のことです。このセクションでは、初めて上田作品の世界に足を踏み入れる方に向けて、まず押さえておきたい作品の普遍的な魅力から、具体的なおすすめ作品、そして多岐にわたるシリーズの概要まで、あなたの「運命の一冊」を見つけるための最適な道筋を、分かりやすくご紹介します。
- 上田秀人作品の魅力と作風
- おすすめの人気作・代表作10選
- 代表的シリーズ・5選|シリーズの特徴と読み順
- 文学賞受賞作から読むのもおすすめ
- 最新の新刊情報をチェック
上田秀人作品の魅力と作風

上田秀人作品が多くの歴史・時代小説ファンを惹きつけてやまない理由は、単なるチャンバラ活劇や勧善懲悪の物語に留まらない、その圧倒的なリアリティと重厚な人間ドラマにあります。歯科医師という科学的素養を持つ著者ならではの論理的な視点が、作品世界に唯一無二の深みと説得力をもたらしているのです。その魅力は、主に以下の3つの重要なポイントに集約することができるでしょう。
ポイント1:徹底した時代考証が生む「生きた江戸」のリアリティ
上田作品の根幹をなすのは、徹底したリサーチに裏打ちされた緻密なリアリティです。江戸時代の幕府や各藩の組織構造、例えば「奥右筆」や「勘定吟味役」といった役職の具体的な職務内容、さらには当時の財政状況や経済システムといった「仕組み」が、驚くほど詳細かつ正確に描かれています。これにより、物語に確かな説得力が生まれ、読者はまるでタイムスリップして当時の武家社会を追体験しているかのような深い没入感を味わうことができます。歴史の教科書では決して学べない、生きた江戸の息遣いがここにあります。
ポイント2:組織に生きる人間の普遍的なドラマ
物語の中心で描かれるのは、巨大な権力機構の中で生きる人間たちの複雑な葛藤です。出世や保身、派閥争いや嫉妬、忠義と私情の板挟みといったテーマは、現代の企業や官公庁にも通じる普遍性を帯びています。主人公たちは、組織の論理と個人の信念との間で激しく揺れ動きながら、自らの「職分」を全うしようと奮闘します。単純な善悪二元論では到底割り切れない、多面的で深みのあるキャラクター描写が、物語に重厚な人間ドラマとしての厚みを与え、多くの読者の共感を呼んでいます。
ポイント3:苦悩し、成長していく魅力的な主人公像
上田作品の主人公は、決して最初から全てを兼ね備えた完璧な超人として登場しません。剣術は一流でも世間知らずであったり、重要な役職に就いたばかりで戸惑ったりと、多くの弱さや未熟さを抱えています。しかし、彼らは次々と降りかかる困難な任務や理不尽な陰謀に真正面から立ち向かう中で、知恵を絞り、仲間との絆を深め、一人の人間として大きく成長を遂げていきます。その等身大の姿に、読者は自らを重ね合わせ、ハラハラしながらも固唾を飲んでその活躍を見守ることになるのです。この丁寧な成長物語こそが、長大なシリーズを通して読者を惹きつけてやまない大きな原動力となっています。
おすすめの人気作・代表作10選

「数あるシリーズの中から、どれから手をつければ良いか分からない」という方のために、まずはここから読んでおけば間違いない、という人気の代表作や各シリーズの第一作を10作品厳選しました。それぞれに異なる魅力がありますので、あらすじやおすすめポイントを参考に、あなたの好みに合う一冊をぜひ見つけてください。
波乱 百万石の留守居役(一)

外様大名の宿命を背負い、若き藩士が幕政の荒波に挑む。
作品内容・あらすじ
四代将軍・徳川家綱の後継者問題に揺れる江戸幕府。外様筆頭の加賀藩は、次期将軍に藩主・前田綱紀を推すという、大老・酒井忠清による危険な謀略に巻き込まれる。藩論が二分する中、若き藩士・瀬能数馬は、藩の運命を背負い江戸藩邸の諜報役「留守居役」に抜擢される。彼は巨大な権力構造の中で、藩を守るために知恵と剣で戦うことを決意する。
おすすめポイント
シリーズ累計で吉川英治文庫賞を受賞した、上田作品入門に最適な傑作です。主人公・数馬が未熟ながらも成長していく姿に共感しやすく、複雑な藩政の世界や「留守居役」という特殊な役職の仕事を分かりやすく知ることができます。壮大な物語の幕開けにふさわしい、緊迫感と読みやすさを両立させており、最初の一冊に迷ったらまずこれをおすすめします。
出版年 | 2013年 |
小説ジャンル | 藩政ドラマ、武家小説 |
シリーズ名 | 百万石の留守居役 (1) |
受賞した賞 | 第7回吉川英治文庫賞(シリーズとして) |
密封 奥右筆秘帳

筆は剣よりも強し。幕府の最高機密を巡る暗闘が始まる。
作品内容・あらすじ
十一代将軍・徳川家斉の治世。江戸城のあらゆる文書を扱い、幕政の最高機密に触れる部署「奥右筆」。その組頭・立花併右衛門は、権勢を誇った田沼意次失脚のきっかけとなった過去の刃傷事件の謎に迫る。それは、幕閣の権力者たちが隠蔽しようとする闇に触れることであり、自らの命が狙われる危険な探索の始まりであった。
おすすめポイント
上田秀人の名を一躍高めた代表シリーズの第一作です。「この時代小説がすごい!」で2度にわたり第1位に輝いたことからも、その人気と質の高さがうかがえます。剣戟だけでなく、文書や情報を用いたインテリジェンスな戦いが魅力。主人公と彼を護衛する若き剣士との固い絆も見どころで、ハードボイルドな雰囲気が好きな読者に特におすすめです。
出版年 | 2007年 |
小説ジャンル | 武家小説、サスペンス |
シリーズ名 | 奥右筆秘帳 (1) |
破斬 勘定吟味役異聞

世間知らずの若き武士が、幕府財政の巨悪に斬り込む。
作品内容・あらすじ
六代将軍・徳川家宣の時代。兄の急逝で家督を継いだ旗本・水城聡四郎は、勘定に疎いにも関わらず、将軍の懐刀・新井白石によって幕府の会計監査役「勘定吟味役」に抜擢される。数度にわたる小判改鋳の裏に潜む巨額の利権と、そこに巣食う見えざる敵を相手に、聡四郎は得意の剣術「一放流」を武器に江戸の闇に立ち向かう。
おすすめポイント
上田作品で最も長く愛される人気主人公・水城聡四郎が初登場する記念碑的作品です。専門的で難解になりがちな財政問題を、手に汗握る剣戟アクションを交えながら極上のエンターテインメントとして昇華させた手腕は見事。20巻以上にわたって続く聡四郎の長い物語の原点として、ファンならずとも必読の一冊と言えるでしょう。
出版年 | 2005年 |
小説ジャンル | 武家小説、経済時代小説 |
シリーズ名 | 勘定吟味役異聞 (1) |
抵抗 惣目付臨検仕る

江戸城の全てを敵に回す。聡四郎、最後の戦いが幕を開ける。
作品内容・あらすじ
八代将軍・徳川吉宗の幕政改革を長年にわたり支えてきた水城聡四郎。彼は新たに、老中さえも監察対象とする将軍直属の役「惣目付」を命じられる。それは、江戸城内のあらゆる権力者から抵抗を受け、すべての者を敵に回すことを意味していた。聡四郎は、慣例と利権にしがみつく者たちとの最後の戦いに臨む。
おすすめポイント
人気主人公・水城聡四郎の物語、その最終章の幕開けとなる一冊です。これまでのシリーズで数々の役職を経験し、人間的にも大きく成長を遂げた聡四郎の集大成とも言える活躍が描かれます。この作品からでも十分に楽しめますが、「勘定吟味役異聞」から順に読み進めると、その感動は計り知れないものになるでしょう。
出版年 | 2021年 |
小説ジャンル | 武家小説 |
シリーズ名 | 惣目付臨検仕る (1) |
孤闘 立花宗茂

義に生きた不敗の武将。その生涯は、戦国の終わりを告げる。
作品内容・あらすじ
豊臣秀吉に「その剛勇、鎮西一」と称され、徳川家康からも高く評価された武将・立花宗茂。大友家臣として島津の大軍と戦い、秀吉の下で朝鮮に出兵し、関ヶ原では西軍として家康と対峙する。時代の荒波に翻弄されながらも、彼は己の「義」を貫き通す。一人の武士の誇り高い生き様を描いた歴史長編。
おすすめポイント
権威ある中山義秀文学賞を受賞した、著者渾身の傑作歴史小説です。シリーズものではないため、この一冊で物語が美しく完結します。上田秀人の重厚な筆力をじっくりと味わいたい方に特におすすめ。戦国時代末期の高潔な武将の生き様を通して、武士の「義」とは何かを読者に問いかける、感動的な物語です。
出版年 | 2009年 |
小説ジャンル | 歴史小説 |
受賞した賞 | 第16回中山義秀文学賞 |
戦端 武商繚乱記

武士か商人か。元禄の世、金の力が時代を揺るがす。
作品内容・あらすじ
舞台は絢爛豪華な元禄期の大坂。莫大な富を築いた豪商・淀屋が、西国大名すら支配するほどの絶大な力を持つようになっていた。幕府はその台頭を危惧し、事態の収拾に乗り出す。妻の不貞により奉行所内で孤立していたはみ出し同心・山中小鹿は、武士の矜持を懸け、商人が仕掛ける「金」の戦争の最前線に身を投じる。
おすすめポイント
「武士の世」から「商人の世」へと移り変わる時代のダイナミズムを、経済の視点から描いた新シリーズです。これまでの武家社会中心の物語とは一味違う、金融や流通をテーマにした戦いが非常に新鮮。新しい切り口の上田作品を読みたい方や、商都・大坂の活気に興味がある方におすすめの一冊です。
出版年 | 2022年 |
小説ジャンル | 経済時代小説 |
シリーズ名 | 武商繚乱記 (1) |
召喚 勘定侍 柳生真剣勝負

剣の一族に、算盤の天才現る。柳生家の危機を救えるか。
作品内容・あらすじ
将軍家剣術指南役として名高い柳生家が、深刻な財政破綻の危機に瀕していた。当主・柳生宗矩は、起死回生の策として、大坂一の商人の孫として育った己の隠し子・一夜を呼び寄せ、勘定方として召し抱える。剣は素人だが金勘定は天才的な一夜は、旧弊な武家の常識に挑みながら柳生家の改革に乗り出す。
おすすめポイント
「剣の柳生」と「商人の勘定」という異色の組み合わせが痛快な作品です。武士の常識が全く通用しない主人公が、その卓越した商才で凝り固まった組織を改革していく様は爽快そのもの。コメディタッチな要素もあり、シリアスな作品が多い中で、気軽に楽しめるシリーズとして高い人気を誇っています。
出版年 | 2020年 |
小説ジャンル | 武家小説、お仕事小説 |
シリーズ名 | 勘定侍 柳生真剣勝負 (1) |
跡継 高家表裏譚

忠臣蔵の悪役ではない、若き吉良上野介の真実の姿。
作品内容・あらすじ
幕府と朝廷の儀礼・典礼を司る名門「高家」。その跡取りとして生まれた吉良三郎義央(後の上野介)は、13歳にして将軍・家綱に謁見する。彼が目の当たりにしたのは、武家の光と闇が渦巻く、複雑怪奇な政治の世界だった。歴史の裏面で重要な役割を担った知られざる高家の内情と、若き義央の苦悩と成長を描く。
おすすめポイント
「忠臣蔵」で完全な悪役として描かれる吉良上野介を、全く新しい視点から描いた意欲作です。歴史上の人物の固定観念を鮮やかに覆し、その実像に迫ろうとする著者の深い歴史観が光ります。歴史の「if」や人物の再評価に興味がある読者には、知的好奇心を大いに刺激されること間違いありません。
出版年 | 2020年 |
小説ジャンル | 歴史小説、武家小説 |
シリーズ名 | 高家表裏譚 (1) |
切開 表御番医師診療禄

江戸城で起きた刃傷事件。メスと剣で、医師が真相を暴く。
作品内容・あらすじ
五代将軍・徳川綱吉の時代。江戸城の診療所に勤める表御番医師・矢切良衛は、大老・堀田正俊が城内で斬殺されるという大事件に遭遇する。公式には乱心による犯行とされたが、遺体を検死した良衛はそこに巨大な陰謀の匂いを嗅ぎ取る。彼は医師としての知識と剣の腕を頼りに、事件の真相究明に乗り出す。
おすすめポイント
医療とミステリーを巧みに融合させたユニークなシリーズです。当時の医療事情や、医師という専門職の立場から見た武家社会の姿が非常に興味深く描かれています。緊迫感のあるサスペンスが好きな方や、チャンバラ以外の切り口を持つ時代小説を読んでみたいという方に、入門編としておすすめです。
出版年 | 2013年 |
小説ジャンル | 医療ミステリー、武家小説 |
シリーズ名 | 表御番医師診療禄 (1) |
金の価値 日雇い浪人生活録

日雇い暮らしの浪人が、江戸の経済を変える大勝負に巻き込まれる。
作品内容・あらすじ
親の代からの貧乏浪人・諌山左馬介は、その実直さを買われ、ある日、江戸屈指の両替商・分銅屋に用心棒として雇われる。時を同じくして、のちに権勢を振るう若き日の田沼意次が、日本の経済構造を「米」中心から「金」中心へと変える壮大な改革に乗り出していた。左馬介は、意図せずして江戸の利権を巡る大きな争いの渦中へと身を投じていく。
おすすめポイント
江戸時代の経済システムに鋭く切り込んだ、社会派時代小説とも言えるシリーズ。日々の生活に汲々とする一介の浪人の視点から、大きな時代の変化とそれに伴う人々の思惑を描く構成が秀逸です。歴史のダイナミズムを感じたい方や、経済をテーマにした物語が好きな方にぴったりの作品です。
出版年 | 2016年 |
小説ジャンル | 経済時代小説 |
シリーズ名 | 日雇い浪人生活録 (1) |
代表的シリーズ・5選|シリーズの特徴と読み順

上田秀人氏の魅力は、何と言ってもその多岐にわたる長編シリーズにあります。ここでは、数ある中でも特に人気の高い代表的なシリーズを5つ厳選し、それぞれの特徴とおすすめの読み順をご紹介します。気になるテーマや主人公を見つけて、壮大な物語の世界に飛び込んでみましょう。
百万石の留守居役シリーズ (全17巻)

加賀藩の若き諜報役が、幕府の謀略に立ち向かう藩政ドラマ。
シリーズの内容・あらすじ
四代将軍家綱の世。幕府の権力闘争に巻き込まれた外様大名・加賀藩。若き藩士・瀬能数馬は、江戸で各藩の情報を探る諜報役「留守居役」に抜擢される。藩の存亡をかけ、巨大な敵との情報戦や、藩内の権力争いに身を投じていく。数馬の成長と活躍を描く、壮大な物語。
おすすめポイント
吉川英治文庫賞を受賞した著者の代表作であり、上田作品入門に最もおすすめのシリーズです。主人公の成長物語として非常に完成度が高く、複雑な武家社会の仕組みを学びながら楽しめます。全17巻で完結しているため、達成感を味わいたい方にもぴったりです。
読み順
文庫に巻数表示があるため、『波乱』(一)から順番に読み進め、『要訣』(十七)で完結となります。
奥右筆秘帳シリーズ (全12巻+外伝1巻)

幕府の最高機密を巡る、ハードボイルドなサスペンス時代小説。
シリーズの内容・あらすじ
十一代将軍家斉の治世。幕府の全文書が集まる「奥右筆」の組頭・立花併右衛門は、その職務ゆえに幕政の深き闇に触れてしまう。権力者たちの陰謀に巻き込まれ、命を狙われる併右衛門。彼を護衛するのは、涼天覚清流の若き剣士・柊衛悟。二人は筆と剣を武器に、巨大な悪に挑む。
おすすめポイント
「この時代小説がすごい!」で2度1位に輝いた人気シリーズ。派手な剣戟だけでなく、緻密な情報戦や権力闘争が好きな大人向けの作品です。主人公と護衛役の固い絆、そして最強の敵との死闘など、手に汗握る展開が連続します。上田作品のシリアスな魅力を堪能できます。
読み順
『密封』(一)から刊行順に読み進め、『決戦』(十二)で本編が完結。その後、登場人物たちの過去を描いた外伝『前夜』を読むと、より物語への理解が深まります。
水城聡四郎シリーズ (全26巻)

一人の武士の生涯を描く、上田作品最長の壮大な大河ロマン。
シリーズの内容・あらすじ
剣は得意だが世間知らずの旗本・水城聡四郎が、幕府の様々な役職を経験しながら成長していく物語。幕府財政を監査する「勘定吟味役」、女人禁制の「大奥御広敷用人」、全国を旅する「道中奉行副役」、そして老中さえも監察する「惣目付」として、江戸の闇に立ち向かう。
おすすめポイント
上田作品で最も人気の高い主人公・聡四郎の人生を追体験できる、まさに大河ドラマのようなシリーズです。4つのサブシリーズから構成されており、それぞれで聡四郎が異なる役職に就くため、飽きずに読み進めることができます。上田ワールドにどっぷり浸かりたいなら、このシリーズは外せません。
読み順
以下の順番で各シリーズを読み進めるのがおすすめです。
「勘定吟味役異聞」シリーズ (全8巻)
「御広敷用人 大奥記録」シリーズ (全12巻)
「聡四郎巡検譚」シリーズ (全6巻)
「惣目付臨検仕る」シリーズ (続刊中)
妾屋昼兵衛女帳面シリーズ (全8巻)

世継ぎ問題は、お家の一大事。江戸の裏稼業が暗躍する。
シリーズの内容・あらすじ
世継ぎのいない大名家や旗本に、秘密裏に側室を斡旋する裏稼業「妾屋」を営む山城屋昼兵衛。しかし、家の相続には必ず陰謀と権力闘争がつきまとう。昼兵衛と、彼を護衛する凄腕の浪人・大月新左衛門は、依頼の裏に潜む人間の欲望と幕政の闇に巻き込まれていく。
おすすめポイント
大奥や世継ぎ問題といった、女性が深く関わるテーマを扱ったシリーズ。武家社会の表と裏をスリリングに描き出しています。単なるヒーロー活劇ではなく、裏稼業ならではの知恵と交渉術で困難を乗り越えていく展開が魅力。一風変わった設定の時代小説を読みたい方におすすめです。
読み順
『側室顛末』(一)から始まり、『閨之陰謀』(八)で完結。刊行順に読み進めてください。
闕所物奉行 裏帳合シリーズ (全6巻)

罪人の財産を没収せよ!貧乏御家人が幕末の闇を暴く。
シリーズの内容・あらすじ
舞台は天保の改革期。罪人の財産を没収し、売却する役職「闕所物奉行」を務める貧乏御家人・榊扇太郎。彼はある事件をきっかけに、水戸藩の思惑や、老中・水野忠邦と目付・鳥居耀蔵の権力争いなど、幕末に向かう時代の大きな渦に巻き込まれていく。
おすすめポイント
幕末という激動の時代を背景に、これまであまり光が当てられてこなかった「闕所物奉行」という役職の仕事を描いたユニークな作品。歴史上の有名人物が多数登場し、史実とフィクションが巧みに絡み合います。歴史好き、特に幕末ファンにはたまらないシリーズと言えるでしょう。
読み順
『御免状始末』(一)から始まり、『奉行始末』(六)で完結。こちらも刊行順に読むのがおすすめです。
文学賞受賞作から読むのもおすすめ

どの作品から読むか迷った際は、権威ある文学賞を受賞した作品から手に取るのも確実な方法です。専門家から高く評価された作品は、物語の完成度や面白さが保証されていると言っても過言ではありません。上田秀人氏は、その長年の功績から数々の栄誉ある賞に輝いています。
主な受賞歴
- 第16回中山義秀文学賞:『孤闘 立花宗茂』(2010年)
- 第3回歴史時代作家クラブ賞(シリーズ賞):「奥右筆秘帳」シリーズ(2014年)
- 第7回吉川英治文庫賞:「百万石の留守居役」シリーズ(2022年)
特に、シリーズ作品として吉川英治文庫賞を受賞した『百万石の留守居役』は、大衆文学として最高の栄誉の一つであり、面白さ、質の高さ、そして読者からの支持、そのすべてを兼ね備えたシリーズであることの証明です。また、単巻の歴史小説として中山義秀文学賞を受賞した『孤闘 立花宗茂』は、著者の歴史観と筆力が凝縮された傑作。まずはこうした受賞作から、上田ワールドのクオリティを体感してみてはいかがでしょうか。
最新の新刊情報をチェック

上田秀人氏は2025年3月27日に惜しまれつつ逝去されましたが、その精力的な執筆活動により、その後も単行本や文庫が刊行され続けています。ここでは近年に発売された主な作品をご紹介します。
著者の死後も新たなファンを獲得し続けており、今後も未刊行作品や未収録短編などが書籍化される可能性があります。最新の情報を見逃さないためには、出版社の公式サイトや著者の公式ホームページなどを定期的にチェックすることをおすすめします。
近年刊行された主な作品
- 『布武の果て』(集英社文庫/2025年2月)- 堺の商人から見た本能寺の変の真相に迫る。
- 『新陰の大河 上泉信綱伝』(小学館/2024年3月)- 剣聖・上泉信綱の生涯を描く戦国ロマン。
- 『流言 – 武商繚乱記(三)』(講談社文庫/2024年3月)- 人気シリーズ「武商繚乱記」の第三弾。
これらの作品は、著者が晩年に到達した円熟の境地が感じられる力作揃いです。既存のシリーズを読み終えた方は、ぜひ手に取ってみてください。
全網羅|上田秀人作品の読む順番とリスト
上田秀人作品の魅力に触れ、「もっと深く、もっと広くこの世界を知りたい」と感じた方へ。このセクションでは、作家本人のプロフィールから、読書体験をさらに豊かにする公式ガイドブック、そして全作品を網羅したリストまで、上田秀人ワールドを隅々まで楽しむための情報を提供します。あなたの読書ライフをさらに充実させるための、決定版ガイドです。
プロフィール|時代小説で知られる作家
上田 秀人(うえだ ひでと)
1959年、大阪府生まれ。大阪歯科大学を卒業後、歯科医師として勤務する傍ら、小説家を志し執筆活動を開始。1997年に「身代わり吉右衛門」で第20回小説CLUB新人賞佳作を受賞しデビューを果たしました。以降、文庫書き下ろし時代小説をメインフィールドに、数多くのヒットシリーズを連発し、瞬く間に人気作家としての地位を確立。2025年3月27日、病気のため65歳で逝去されました。(参照:時代小説SHOW)
彼の作品は、医療従事者らしい科学的・論理的な思考に基づいた緻密なプロットと、徹底した時代考証が特徴です。武士の生き様や江戸時代の組織の力学を、現代にも通じるリアルな視点で描き出すその手腕は、他の追随を許しません。その多大な功績により、中山義秀文学賞や吉川英治文庫賞など、数々の権威ある文学賞を受賞しています。質量ともに時代小説界を牽引し続けた、まさに巨星と呼ぶにふさわしい作家です。
上田秀人公式ガイドブックで深掘り
各シリーズを読んでみて、「登場人物の関係性を整理したい」「作者はどんな思いでこの作品を書いたのだろう?」といった、より深い興味が湧いてきた方には、『上田秀人公式ガイドブック』(徳間文庫)が最適な一冊です。
このガイドブックは、ファンからの熱い要望に応えて刊行されたもので、その内容は非常に充実しています。
公式ガイドブックの主な内容
- ロングインタビュー:デビューから人気作家になるまでの道のりや、創作活動への思いを語る貴重なインタビュー。
- 全著作ガイド:刊行された全作品のあらすじや解説を網羅。
- 登場人物事典:主要シリーズのキャラクターたちの詳細なプロフィールや相関図。
- 特別書き下ろし短編:人気シリーズ「織江緋之介見参」の貴重な外伝「吉原前夜」を収録。
- 著名人による解説:書評家・縄田一男氏による「上田秀人総論」など。
各シリーズの相関関係や作品執筆の裏側を知ることで、一度読んだ作品も新たな視点で楽しむことができます。作品世界の解像度を格段に上げてくれる、まさにファン必携のアイテムと言えるでしょう。
シリーズ作品一覧を文庫本の出版順で網羅
上田秀人氏の作品は非常に多いため、すべてを網羅するのは大変ですが、ここでは主要な長編シリーズの刊行リストをまとめました。シリーズを追いかける際の参考にしてください。なお、各シリーズはそれぞれ独立しているため、どのシリーズから読み始めても問題ありません。
シリーズ名 | 巻数 | 第一作刊行年 | 完結状況 |
---|---|---|---|
三田村元八郎シリーズ | 全6巻 | 2001年 | 完結 |
織江緋之介見参シリーズ | 全7巻 | 2004年 | 完結 |
【水城聡四郎シリーズ】 | – | – | – |
勘定吟味役異聞 | 全8巻 | 2005年 | 完結 |
御広敷用人 大奥記録 | 全12巻 | 2012年 | 完結 |
聡四郎巡検譚 | 全6巻 | 2018年 | 完結 |
惣目付臨検仕る | 6巻まで | 2021年 | 続刊中 |
奥右筆秘帳シリーズ | 全12巻+外伝1巻 | 2007年 | 完結 |
闕所物奉行 裏帳合シリーズ | 全6巻 | 2009年 | 完結 |
お髷番承り候シリーズ | 全10巻 | 2010年 | 完結 |
妾屋昼兵衛女帳面シリーズ | 全8巻 | 2011年 | 完結 |
表御番医師診療禄シリーズ | 全13巻 | 2013年 | 完結 |
百万石の留守居役シリーズ | 全17巻 | 2013年 | 完結 |
禁裏付雅帳シリーズ | 全12巻 | 2015年 | 完結 |
日雇い浪人生活録シリーズ | 15巻まで | 2016年 | 続刊中 |
町奉行内与力奮闘記シリーズ | 全9巻 | 2015年 | 完結 |
辻番奮闘記シリーズ | 6巻まで | 2017年 | 続刊中 |
勘定侍 柳生真剣勝負シリーズ | 8巻まで | 2020年 | 続刊中 |
高家表裏譚シリーズ | 7巻まで | 2020年 | 続刊中 |
隠密鑑定秘禄シリーズ | 4巻まで | 2022年 | 続刊中 |
武商繚乱記シリーズ | 3巻まで | 2022年 | 続刊中 |
注意点
上記リストは主要な長編シリーズのみです。この他にも短期シリーズや単発の長編、短編集など数多くの著作があります。全作品の詳細は著者の公式ホームページ(如流水の庵)などでご確認ください。
まとめ:最適な上田秀人の読む順番
この記事では、時代小説の大家・上田秀人作品の読む順番について、初心者向けのおすすめから各シリーズの深掘りまで詳しく解説しました。最後に、本記事の要点をまとめます。
- 初心者は吉川英治文庫賞受賞作「百万石の留守居役」からが最適
- ハードな作風が好きなら代表作「奥右筆秘帳」シリーズがおすすめ
- 人気キャラ水城聡四郎を追うなら「勘定吟味役異聞」から順番に
- 各シリーズは独立しており気になるテーマの作品から読んでも楽しめる
- 読む順番に迷ったら各シリーズの第一巻から刊行順に読むのが王道
- 作家の逝去後も新刊が刊行されており今後の情報にも注目
上田秀人氏の作品世界は、その緻密な設定と重厚な物語の魅力から、一度足を踏み入れると抜け出せなくなるほどの吸引力を持っています。本記事で紹介した、時代小説で知られる著者のプロフィールや、おすすめの人気作・代表作10選を参考に、あなたにとって最適な上田秀人の読む順番を見つけてください。
文学賞を受賞した傑作から手に取るのも良いですし、気になるシリーズの作品内容を確認して選ぶのも一つの方法です。手に取りやすい文庫本で、まずは一冊、その唯一無二の作風に触れてみてはいかがでしょうか。最新の新刊情報もチェックしつつ、壮大な歴史ドラマの海へ漕ぎ出すことで、あなたの読書体験はより一層豊かなものになるはずです。